アンカリング効果とは、最初に与えられた情報や数字を基準として、その後の判断が歪められてしまう認知バイアスの一種です。
アンカリング効果の語源
アンカリング効果の語源は、英語の「anchor(アンカー)」です。アンカーは日本語で「いかり」を意味し、船を停泊させるための道具です。アンカリング効果は、最初に与えられた情報(アンカー)を基準に考えることで、その後に提示された別の情報への認識が異なるという現象です。このことから、アンカリング効果は、船がアンカーによって停泊するように、最初に与えられた情報が判断を固定してしまうという意味で、アンカーという言葉が用いられています。
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アンカリング効果とは?活用例や実践方法、フレーミング効果との違いを解説 | ビジネスチャットならChatwork
アンカリング効果の提唱者
アンカリング効果の提唱者は、エイモス・トベルスキー(Amos Tversky)とダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)です。彼らは、1974年に発表した論文「Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases」の中で、アンカリング効果を認知バイアスの一種として提唱しました。
アンカリング効果とは、直前に与えられた数値情報が後続の数量推定に影響を与える現象です。例えば、ある商品の価値を推定する際に、最初に「10万円」というアンカーを与えられた場合、その商品の価値を10万円より低く推定することは難しくなります。
トベルスキーとカーネマンは、アンカリング効果は、ヒューリスティックと呼ばれる認知バイアスによって引き起こされると説明しました。ヒューリスティックとは、複雑な判断や推論を迅速かつ効率的に行うために用いられる、簡易的な判断ルールです。アンカリング効果では、直前に与えられた数値情報がヒューリスティックとして用いられ、その後の判断に影響を与えると考えられています。
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心理学用語「アンカリング効果」とは?具体例まで簡単に解説 – スッキリ
アンカリング効果の特徴
アンカリング効果の特徴は、以下の3つが挙げられます。
最初に与えられた情報の影響力が大きい
アンカリング効果では、最初に与えられた情報(アンカー)の影響力が非常に大きいです。アンカーは、その後の判断の基準となるため、アンカーが大きく離れているほど、その影響力は大きくなります。
情報量が少ないほど、アンカリング効果は強くなる
情報量が少ないほど、アンカーの影響力は強くなります。これは、情報量が少ないときには、アンカーを基準に考えることで、判断をしやすくなるためです。
感情に影響を受ける
アンカリング効果は、感情に影響を受けることもあります。例えば、ポジティブな感情を抱いているときには、アンカーの影響を受けやすくなる傾向があります。
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アンカリング効果とは?マーケティングに活用した事例と注意点を解説 | 株式会社Sprocket
アンカリング効果がよく見られる場面
アンカリング効果がよく見られる場面は、主に以下のとおりです。
マーケティング
マーケティングにおいては、商品やサービスの価格設定にアンカリング効果がよく利用されます。例えば、通常価格10万円の洗濯機が、今ならセールで5万円で販売されている場合、先に「10万円」という価格が提示されているため、5万円を「お得」と判断しやすくなります。また、商品の機能や性能を強調することで、その商品の価値を高め、より高い価格で販売することもできます。
営業
営業においても、アンカリング効果は重要な役割を果たします。例えば、顧客に最初に高い見積書を提示し、その後に値引きを提案することで、顧客は値引きされた価格を「お得」と判断しやすくなります。また、顧客に「この商品は、他社製品より10%優れています」と伝えることで、顧客は他社製品よりも高い価格を受け入れやすくなります。
交渉
交渉においても、アンカリング効果は有効です。例えば、交渉の最初に高い要求をすることで、その後の交渉で譲歩しやすくなります。また、交渉の相手に「この条件でなければ、取引は成立しません」と伝えることで、相手は提示された条件を受け入れやすくなります。
日常生活
アンカリング効果は、マーケティングや営業などのビジネスシーンだけでなく、日常生活でもよく見られます。例えば、待ち合わせに遅れそうなときに、「15分遅れる」と伝えると、実際に15分遅れたときに相手は「思っていたよりも早く着いた」と感じやすくなります。また、給料の交渉をするときに、最初に高い金額を提示することで、交渉を有利に進めることができます。
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アンカリング効果とは–最初に見た数字がカギ? 心理学での意味をわかりやすく解説 – CANVAS|若手社会人の『悩み』と『疑問』に答えるポータルサイト
アンカリング効果の原因
アンカリング効果の原因は、以下の3つが考えられます。
「基準」の設定
アンカリング効果は、最初に提示された情報(アンカー)を基準として、その後の判断が歪められてしまうという現象です。アンカーは、私たちが判断を下す際の基準となるため、アンカーが大きくなると、その基準から離れた判断を下すことが難しくなります。
「認知バイアス」の影響
アンカリング効果は、認知バイアスの一種である「確証バイアス」の影響によって引き起こされると考えられています。確証バイアスとは、自分が信じたい情報に偏って注意を向け、それを支持する情報を探し出し、反対する情報を無視してしまう傾向のことです。アンカリング効果では、最初に提示されたアンカーを支持する情報を探し出し、それに基づいて判断を下してしまうため、アンカーから離れた判断を下すことが難しくなります。
「思考の省略」
私たちは、常に正確な判断を下そうと努力しているわけではありません。むしろ、多くの情報から判断を下すのは時間と労力を要するため、手っ取り早く判断を下したいという心理があります。アンカリング効果では、最初に提示されたアンカーを基準として判断を下すことで、思考の省略が図られるため、アンカーから離れた判断を下すことが難しくなります。
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アンカリング効果の発生原因は数字か意味か
アンカリング効果の活用法
アンカリング効果を活用する主な方法は、以下のとおりです。
比較対象を用意する
消費者は、複数の選択肢がある場合、その中から最も割安な商品やサービスを選ぶ傾向があります。そのため、高価な商品やサービスを比較対象として用意することで、中価格帯の商品やサービスが割安に感じられるようにすることができます。
値引きや割引率を強調する
値引きや割引率を強調することで、消費者は本来よりも安価な商品やサービスであると認識するようになります。
最初に高い数字を提示する
最初に高い数字を提示することで、その後に提示される中程度の数字が割安に感じられるようにすることができます。
アンカリング効果は、以下の場面で活用することができます。
マーケティング
商品やサービスの価格設定、キャンペーンの実施、広告の宣伝など
営業
見積書の作成、交渉の進め方など
人間関係
約束の時間や条件の提示など
アンカリング効果は、適切に活用することで、消費者の購買意欲を高めたり、交渉を有利に進めたりすることができます。ただし、アンカリング効果を過信しすぎると、消費者の不信感を招く可能性もあるため注意が必要です。
参考URL:
アンカリング効果とは?アンカリング効果の活用例から実践方法まで徹底解説 |マケフリ
アンカリング効果の注意点
アンカリング効果を活用する際は、以下の点に注意が必要です。
盛りすぎは逆効果
アンカリング効果を最大限に利用しようと、最初に提示する「通常価格」を高く設定しすぎると、かえって顧客の不信感を煽ってしまうこともあります。また、景品表示法の「不当な二重価格表示」に該当する可能性もあります。
二重価格表示は適切に行う
アンカリング効果を狙って通常価格からの割引表示(二重価格表示)をする場合、景品表示法の価格表示ガイドラインを守らないと「不当な二重価格表示」として措置命令を受ける可能性もあります。二重価格表示を行う場合は、以下の点に注意しましょう。
- 比較対照価格が過去に存在したものであること
- 比較対照価格が現在も適正なものであること
- 比較対照価格と現在の価格の差額が適正なものであること
長期間のアンカリングは当たり前になる
アンカリング効果は、最初に提示された情報が長期間記憶に残ると、その情報に基づいた判断や評価が当たり前になってしまうという特徴があります。そのため、長期間にわたってアンカリング効果を活用する場合は、その効果が薄れないように注意が必要です。
アンカリングが効きづらい商品がある
アンカリング効果は、消費者が商品やサービスについて十分な知識を持っていない場合に効果的です。そのため、消費者が商品やサービスについてよく知っている場合は、アンカリング効果が効きづらい場合があります。
参考URL:
アンカリングとは?マーケティングでの活用事例や注意点を解説 | Indeed (インディード)
アンカリング効果の対処法
アンカリング効果に対処するためには、以下の方法が有効です。
複数の情報を比較する
アンカリング効果は、最初に提示された情報によって判断が左右されるため、複数の情報を比較することで、アンカーとなる情報を意識的に排除することができます。たとえば、商品を購入する際には、複数の店舗で価格を比較したり、複数の製品の性能を比較したりすることで、アンカリング効果の影響を軽減することができます。
自分の基準を明確にする
アンカリング効果は、最初に提示された情報によって判断が左右されるため、自分の基準を明確にすることで、アンカーとなる情報を無視することができます。たとえば、商品を購入する際には、予算や必要な機能などを事前に決めておくことで、アンカリング効果の影響を軽減することができます。
第三者の意見を聞く
アンカリング効果は、最初に提示された情報によって判断が左右されるため、第三者の意見を聞くことで、アンカーとなる情報を客観的に評価することができます。たとえば、商品を購入する際には、家族や友人などの意見を聞くことで、アンカリング効果の影響を軽減することができます。
参考URL:
アンカリング効果とは? フレーミング効果との違い、具体例 – カオナビ人事用語集
アンカリング効果のメリットとデメリット
メリット
アンカリング効果を活用することで、以下のメリットを得ることができます。
購買意欲の向上
アンカリング効果によって、商品の価値を高く見せたり、お得感を感じさせたりすることで、購買意欲を向上させることができます。
意思決定の促進
アンカリング効果によって、判断基準を与えることで、意思決定を促進することができます。
ブランドイメージの向上
アンカリング効果によって、商品やサービスのブランドイメージを向上させることができます。
デメリット
アンカリング効果を活用することで、以下のデメリットが生じる可能性があります。
消費者の誤認
アンカリング効果によって、消費者が商品やサービスの価値を誤認してしまう可能性があります。
景品表示法違反のリスク
アンカリング効果を過度に活用すると、景品表示法違反のリスクが生じる可能性があります。
消費者の不信感
アンカリング効果を露骨に活用すると、消費者の不信感を招く可能性があります。
参考URL:
心理学や行動経済学で扱われるアンカリング効果とは【ビジネスで実際に行われている例についてわかりやすく解説します】|グローバル採用ナビ
アンカリング効果とフレーミング効果の違い
アンカリング効果とフレーミング効果は、どちらも意思決定に影響を与える認知バイアスの一種ですが、情報提示の仕方に違いがあります。
アンカリング効果は、最初に提示された情報によって、その後の判断が偏ってしまう現象です。例えば、2万円の商品を売るときに「定価10万円のところ2万円」と表示すると、定価10万円という数字が基準となり、2万円という価格が割安に感じられてしまいます。
フレーミング効果は、同じ情報や選択肢が異なる表現方法で提示されると、その受け取り方や判断が変わる現象です。例えば、同じ調査結果を「15%の人が効果を実感できなかった」と表現すると、否定的な印象を与えますが、「85%の人が効果を実感できた」と表現すると、肯定的な印象を与えます。
アンカリング効果とフレーミング効果の違いは、以下の表の通りです。
効果 | 情報提示の仕方 | 例 |
---|---|---|
アンカリング効果 | 情報提示の順番 | 最初に提示された情報によって、その後の判断が偏る |
フレーミング効果 | 情報提示のやり方 | 同じ情報や選択肢が異なる表現方法で提示されると、その受け取り方や判断が変わる |
アンカリング効果とフレーミング効果は、マーケティングや営業など、意思決定を促す場面でよく利用されます。例えば、アンカリング効果を活用して、商品の価格を割引することで、通常の価格より安く感じさせることができます。また、フレーミング効果を活用して、商品のメリットを強調することで、購入意欲を高めることができます。
アンカリング効果とフレーミング効果は、意識することで回避することができます。例えば、アンカリング効果を回避するためには、最初に提示された情報に惑わされないように、冷静に判断することが大切です。また、フレーミング効果を回避するためには、情報の表現方法に注目し、異なる表現方法でも同じ内容であることを確認することが大切です。
参考URL:
アンカリング効果とは?具体例や活用方法・フレーミング効果との違い | ビズクロ
アンカリング効果の同義語、類義語、関連語、反対語
- アンカリングバイアス
- 自己発生アンカリング効果