中空構造理論とは、日本の文化や社会の特徴を、神話や昔話などの物語構造から解明しようとした理論です。
この理論を提唱したのは、日本のユング派心理学の第一人者である河合隼雄氏です。河合氏は、日本の神話や昔話には、西洋の神話や昔話にはない「中空構造」と呼ばれる独特の構造が見られると指摘しました。
中空構造とは、中心に大きな空白があり、その周囲に複数の要素が配置されている構造です。例えば、日本の神話における三貴神(アマテラス、ツクヨミ、スサノヲ)は、アマテラスが中央に位置し、ツクヨミとスサノヲが左右に配置されています。この場合、アマテラスは中心的な存在であるものの、決して絶対的な権威を有するわけではありません。むしろ、ツクヨミとスサノヲとの間で、常にバランスを保ちながら存在していると言えます。
河合氏は、このような中空構造は、日本の文化や社会の特徴を反映したものであると考えています。例えば、日本の政治制度は、明治維新以降は西洋型の中央集権制を採用してきましたが、しかし、その実態は、中央政府と地方政府、民間企業などのさまざまな要素が、互いに影響を与えながらバランスを保っているという、中空構造的なものです。また、日本の社会は、個人主義よりも集団主義的な価値観が強く、個人が社会に溶け込んで調和を保つことが重視されます。
河合氏は、中空構造は、日本が長い歴史の中で培ってきた、多様性と調和を重んじる精神の表れであると述べています。しかし、一方で、中空構造は、決断力やリーダーシップの欠如などの弱点も指摘されています。
中空構造理論は、日本の文化や社会を理解するための重要な視点の一つとして、広く受け入れられています。