(心理学における)抑圧とは、自我の安定を脅かす不快な記憶や感情、思考などを無意識に押し込める防衛機制のことです。
抑圧の提唱者
心理学における抑圧の提唱者は、オーストリアの精神科医であるジークムント・フロイトです。フロイトは、人間の心は意識、前意識、無意識の三つの層から構成されていると考えました。抑圧とは、意識から不快な感情や記憶を無意識に追い払う防衛機制のことです。フロイトは、抑圧は神経症などの精神疾患の原因になると主張しました。
フロイトは、1894年に発表した論文「神経症の精神病理学」の中で、抑圧の概念を初めて提唱しました。フロイトは、抑圧は、自我が外界からの脅威から自己を守るために行う防衛機制であると説明しました。抑圧された感情や記憶は、無意識下に追い払われ、意識には浮上しませんが、無意識下で働き続け、神経症などの精神疾患の症状を引き起こすと考えました。
フロイトの抑圧の概念は、精神分析において重要な概念として位置づけられています。精神分析では、抑圧された感情や記憶を意識化し、受け入れることで、精神疾患の症状を改善する治療が行われています。
参考URL:
抑圧された記憶 – Wikipedia
抑圧の対象
抑圧の対象は、大きく分けて以下の3つに分けられます。
記憶
過去のトラウマ的な出来事や、恥ずかしい、罪悪感のある記憶などが抑圧の対象になりえます。例えば、虐待を受けた記憶や、失恋した記憶などを忘れてしまうことがあります。
感情
怒り、悲しみ、不安、恐怖などの感情が抑圧の対象になりえます。例えば、怒りを抑圧して、冷静に振る舞うことがあります。
考え
自分の願望や欲求、自己評価などが抑圧の対象になりえます。例えば、自分はダメな人間だと思い込んでいる人が、自分を肯定する考えを抑圧してしまうことがあります。
参考URL:
防衛機制⑨ 抑圧| 説明と具体例 | 東京カウンセリングスペースHiRaKu
抑圧の具体例
以下に、抑圧の具体的な例を挙げます。
過去のトラウマ的な記憶を忘れてしまう
幼い頃に両親の離婚を経験した人が、その記憶を忘れてしまうことがあります。この場合、両親の離婚は子どもにとって受け入れ難く不快な体験であり、それを意識に上らせることで大きな精神的苦痛を伴うため、無意識下に抑圧してしまうのです。
自分の弱点や欠点を受け入れられず、認めようとしない
誰しも、自分の弱点や欠点を持っています。しかし、その弱点や欠点を受け入れられず、認めようとしない人もいます。この場合、弱点や欠点を受け入れることで、自分を否定されたような気持ちになるため、無意識下に抑圧してしまうのです。
自分の本当の気持ちを押し殺して、逆のことを言ったり、行動したりする
自分の本当の気持ちを押し殺して、逆のことを言ったり、行動したりする人もいます。この場合、自分の本当の気持ちを受け入れることで、周囲からの評価を下げてしまうのではないかと恐れるため、無意識下に抑圧してしまうのです。
自分の欲求を他人に投影する
自分の欲求を他人に投影する人もいます。この場合、自分の欲求を受け入れられないため、他人の中に自分の欲求を見出し、それを批判したり、攻撃したりするのです。
現実から目を背けて、逃避的な行動をとる
現実から目を背けて、逃避的な行動をとる人もいます。この場合、現実を直視することで、大きな精神的苦痛を伴うため、無意識下に抑圧してしまうのです。
参考URL:
防衛機制 | 大阪・京都こころの発達研究所 葉
抑圧の問題点
過度に抑圧を行うと、以下のような問題が生じる可能性があります。
心理的症状の出現
抑圧された感情や記憶は、意識下で引き続き作用し、不安や抑うつなどの心理的症状を引き起こす可能性があります。また、不眠症や摂食障害、自傷行為などの症状にもつながることがあります。
対人関係の悪化
抑圧された感情や記憶は、対人関係にも悪影響を及ぼします。例えば、怒りや嫉妬などの感情を抑圧していると、相手に対して攻撃的になったり、距離を置いたりするようになります。また、トラウマ的な体験を抑圧していると、他人を信頼しにくくなったり、他人と深い関係を築けなくなったりすることがあります。
自己成長の阻害
抑圧された感情や記憶は、自己理解や自己成長を阻害します。自分の感情や記憶を正しく認識できなければ、自分のことを理解することができず、成長していくための機会を失ってしまいます。
参考URL:
苦手な人に対する心理と防衛機制 | 医療法人社団 平成医会
心理学における抑圧の対処法
抑圧に対処するためには、以下の方法が有効です。
認知療法
認知療法は、自分の考え方や認知の仕方を修正することで、抑圧された感情や記憶を意識化することを目的とした心理療法です。認知療法では、抑圧された感情や記憶を思い出し、それらを受け入れるためのスキルを身につけていきます。
精神分析療法
精神分析療法は、自分の無意識の領域を探求することで、抑圧された感情や記憶を意識化することを目的とした心理療法です。精神分析療法では、セラピストとのセッションを通じて、自分の幼少期の体験や抑圧された感情や記憶を探求していきます。
自己啓発
自己啓発は、自分の内面と向き合い、自己成長を促すことを目的とした方法です。自己啓発では、書籍やセミナーなどを通じて、自分の感情や思考を理解し、それらを受け入れるための方法を学びます。
抑圧と抑制の違い
心理学における抑圧と抑制は、どちらも不快な感情や記憶を意識から排除する防衛機制の一種です。しかし、両者にはいくつかの重要な違いがあります。
抑圧は、無意識のうちに不快な感情や記憶を意識から排除するプロセスです。抑圧された感情や記憶は、意識的には思い出すことはできませんが、無意識のうちに影響を与えることがあります。例えば、トラウマ的な体験を抑圧した人は、その体験に関連する状況や物事に対して強い不安や恐怖を感じたりすることがあります。
抑制は、意識的に不快な感情や記憶を意識から排除するプロセスです。抑制された感情や記憶は、意識的には思い出すことはできます。例えば、テストが不安な人は、テストの勉強を意識的に避けたり、テストのことを考えないようにしたりすることがあります。
抑圧と抑制の違いをまとめると、以下のようになります。
項目 | 抑圧 | 抑制 |
---|---|---|
意識性 | 無意識 | 意識 |
思い出せるか | 思い出せない | 思い出せる |
影響 | 無意識のうちに影響を与える | 意識的に影響を与える |
抑圧は、幼児期や思春期に、トラウマ的な体験や不適応な感情を処理するために発達すると考えられています。抑制は、日常生活の中で、ストレスや不安を軽減するために用いられることもあります。
抑圧と抑制は、どちらも一時的に不快な感情や記憶を処理する方法として有効ですが、長期的に用いられると、問題を引き起こす可能性があります。抑圧された感情や記憶は、夢や身体症状などの形で表れることがあります。抑制は、現実逃避や問題解決の回避につながることもあります。
抑圧や抑制が原因で困っている場合は、カウンセリングや心理療法を受けることを検討しましょう。